日本が大学入試改革をやる意味とは何なのか?②

日本が大学入試改革をやる意味とは何なのか?② -国際バカロレア(IB)の学校-

 100万ドルの夜景といわれるがチムサーチョイ(尖沙咀)から見る香港島の夜景はビクトリア湾に大型ネオン広告が反射して感動的であった。その中でもひと際目立ったネオンはHITACHIの日本企業名であった。最近この馬鹿でかいネオンも下ろされることになったと聞く。

 90年代,日本から香港に数人の留学生たちが来るようになった。彼らが目指すのは香港に出来たばかりのユナイテッド・ワールド・カレッジ,通称UWCという学校である。この学校はIBディプロマという12,3年生の2年コースの学校で,世界各国からUWC協会の審査を経て16歳から19歳の高校生がやってくる。因みに日本からは灘やラサールの生徒が目立った。日本経団連の奨学金でIBの資格取得に挑戦するつわもの達である。勿論,香港在住の日本人が入ることもあったが,奨学金制度はないので高い学費がかかった。それでも,その教育環境と評価制度は非常に素晴らしいものであった。当時,150人の生徒に100人を超える教師陣がいて,チューターやプライベートティーチャーを含めると生徒数を上回る指導体制であった。自然豊かな環境に電子顕微鏡や実験室といった施設も充実していて大学並みの環境が整っていた。

 このIBディプロマ(DP)は簡単にいうと大学予科というイメージである。大学予科とは戦前の日本の教育で旧制中学の後の大学準備コースといったところだ。もともと明治時代に留学した日本人は欧米から多くのものを学び,その教育の自由度は個々の進路に合わせた選択型の制度として日本に適合させた。戦後の6・3・3制は,GHQが押し付けてきた単線型の学制である。

 IBは英語・フランス語・スペイン語の3つの言語に対応しているが,最近では日本の文部科学省も世界標準の国際バカロレアを日本語として教科履修できるように動き始めている。IBは,文学(母国語)・言語(外国語)・人文科学・自然科学・数学・芸術の6カテゴリーから,それぞれ主専攻上級レベル3教科と標準レベル3教科の6教科を履修しなければならない。1教科につき7段階評価に課題論文や探求学習加点3点で45点満点の評価法である。履修最低基準の24点を満たさないと資格習得できない。

 私がこのIBを知ったのはUWCの個人指導を引き受けたからである。生徒から国語を見て欲しいとの要請に気軽にイエスと応えた私は非常に後悔した。彼らが求めたものは大学での教養教育と同等以上の内容であった。明治文豪の作者論作品論,渡欧した背景や同国同時期の作家比較論などである。ウィンドウズ95が出たばかりの頃で,WEBでググルなど10年以上先の話だ。私は帰国のたびに専門書を仕入れ,最終試験に向けての対策と課題論文作成を手伝った。テスト結果は各教科の内部評価と外部評価といってIB本部のあるスイスに課題論文やディスカッションのテープなどを送る。ファイナル(最終試験)は再テスト(Retake)が2回まで認められるが再受験は余程のことである。このようにヒーヒー言って,私が受け持った生徒たちはフルIB45点中全員が42点以上の好成績であった。正直,東京大学も喉から手が出るくらい欲しい人材だろうと思っていたが,意外や意外。

 次回は最終回,今後の日本の教育はどうなる完結編。

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