校長通信 第4回

 中等は夏季休業期間に入りました。とはいっても、部活動や夏季課外そして後期課程は大学キャンパス見学など、子どもたちはゆっくりしているわけではありません。休暇を如何に有効に使うかで、人の成長は大きく変わります。欧米でモラトリアム期間といって、日本では考えられないくらいの休暇が学生に与えられます。そこでインターンシップやボランティアまたはスポーツ、自由研究、読書に専念します。中等の生徒の皆さんにも与えられるのではなく自らの意志と思いで、この休業期間を有効に過ごしてもらいたいと期待します。

 さて合同HRでお話しした内容ですが、今月初めに父の葬儀がありました。行年90歳の大往生でした。この父の仕事が航空管制官といって、空港の管制塔から飛行機の離発着の指示を出すものです。パイロットとのコミュニケーションは英語で行われます。その父は私の子ども時代、宮崎そして福岡、伊丹、羽田の空港を単身赴任でまわっていたので、断片的な思い出しか残っていません。そのひとつに寝言を英語で話していたのがあります。その時に学校で習う英語とは明らかに違う実践的な英語だなと感心しました。しかし、私が社会人になって初めてハワイに父を連れていった時のことです。タクシーに乗ってホテルに向かう間、雄弁な父が一言も発しなかったのです。非常に不審に感じたのですが、タクシードライバーが景勝地の案内をしたところ、たちまち堰を切ったように父が会話しだしたのです。実践型英語力の達人だと思っていた父の実像は、パイロットとのコミュニケーションに限られた狭い世界のものだったようです。ただ、一度世界を広げた父はその後、海外旅行にはまっていきます。シンガポールや香港そしてオーストラリアに住んでいた私を訪ねてきて、定年後は精力的に自分の世界を広げていったように思います。

 この逸話から中等の皆さんに伝えたいことは、コミュニケーションに必要なのは確かな英語の知識そして相手を受け入れる人間性だということです。前者は前期課程からのたゆまぬ努力が必要です。後者に大切なのは本物に出会うことです。人は異質なものに意義付けして自分で知ったかぶりになる傾向があります。しかし、ロンドンの大英博物館で実際に目にする驚きや友達の意外な一面を知った時の驚き、これらは君たちの先輩が6年間の中でよく出会ってきたという本物の一部です。決してネットやバーチャルな空間でなく、自分の五感を使った本物との出会いです。たとえば、味や臭いは自分で体験して自分のものになります。ネットやテレビの感想を鵜呑みにしているようでは頭で理解しているだけの知識です。本物の体験は自分の言葉で表現できます。また、その後の様々な体験と共により豊かな記憶へと進化します。これが君たちの人間性を形作り、他者とのコミュニケーションを豊かにしてくれるのです。

 皆さんもこの夏、本物の体験が出来るといいですね。

土浦日本大学中等教育学校
校 長 堀  切  浩  一

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